The Daily Planet

日記です

Purelink-"Signs"(2023)

 

まずは1曲目"In Circuits"を必ずイヤホンかヘッドホンで聞いてみてほしい。一聴すると穏やかなシンセが流れる中、4つ打ちのクローズハイハットがBPM112で繰り返される単調極まりない曲のように思える。しかし、再度、顕微鏡を覗くような気持ちでこの中にどのような音が現れているかを確かめてみよう。ブチブチしたヒスノイズ、マイク録音したと思わしき謎の衝突音、金属が触れ合うような音etc...ここには書ききれない、かつ私の頭の中にある形容詞の数では説明が困難な音がすっと現れ、また消えていく(2:50頃から控えめに3音の短いメロディーが現れるが、その後には極度に加工した女性の声らしきものも現れる)。

 

色々なところで指摘される通り、今作は2000年代初頭のグリッチ/ミニマルテクノ(例:"Loop-Finding-Jazz-Records")からの影響が大きい。しかし、過去のそれが当時のビッグビート等、巨人化するテクノのアンチテーゼかのように強迫観念的な執念を持って最小限の音を操ることにこだわっていたのに対し、今作は同じ音楽的ボキャブラリーを使いつつも、どこかジャケットの青空(海?)のように抜けがよくどこか開放感がある。彼らPurelinkは3人組とのことで1人で孤独に音作りをしていた先人とは違うことが要因なのだろうか(それにしてもこれほど抽象的な音楽を3人作業でどう作るのか全く想像できないが・・・)。

 

今作はアンビエントとして聞き流すこともできるのだが、先述したように音像の中に無限のテクスチャが入っており、もし集中してそれらを聞こうという姿勢があれば多かれ少なかれ必ずそれに報いてくれる音楽である。1曲目が群を抜いて素晴らしいが、ドラマーを招いた2曲目「4K Murmurs」では音数は比較的シンプルなものの、生ドラムの繊細な手触りが曲にふくよかさを与えている。アンビエントとしては合格点だが、聞きどころには乏しい3・4曲目を経てラスト5・6曲目で再度、フォーカスに値すべき音像が現れてくる。特に最終曲「We Should Keep Going」はトライバル(民族的)と言えなくもないドラムの中現れる変調した読解不能な女性のボイスがこれまでと違いやや不気味な印象を与える曲で、グリッチアンビエントといった枠から外れて違うところへ行こうとしている印象を受ける。