The Daily Planet

日記です

Real Estate-"Days"(2011)

私が生まれ育ったのは、日本海に面する地方都市であった。そのような人間にとって冬は憂鬱な季節である。このアルバムのジャケット(上記)のような変わり映えのしない家が並ぶ景色の中、膝下あたりまで積もる雪を掻き分けながら学校まで通うことは、その晴れない天気と相まって全てが私の気持ちを落ち込ませるために用意されているかのようだった。今作がリリースされたのは2011年の10月だったが私が初めて聞いたのはそれからおよそ4ヶ月後、雪はまだ降り続けており、そして大学受験がほぼ終わったタイミングだった。田舎の高校生というある種保護された身分から、県外で大学生として(一応)自立し、大人として扱われるその狭間で、ある時期の終わりが目の前に迫っていた。

 

Real Estateは、ニュージャージー州のリッジウッドという田舎出身のバンドであるが、別にそのことを知らずとも彼らが育った環境はこのアルバムを聞けばすぐに分かる。「落ち葉の上を歩く」「凍った海をスケートする」「緑の道を通って当てもなくドライブする」etc...豊富な風景描写から彼らが見る世界は、なんということもない地方都市(そのまんま"Municipality"という曲もある)のものである。しかし、煌めくようなギターと優しいボーカルが重なることでそのような風景が何か特別なもののように思えるのだ。今まで聞いたことがある日本の音楽がリプリゼントし得なかった地方の風景を、海を挟んだアメリカのインディーバンドが身近に思えるやり方で表現していることは、私の音楽の見方にささやかだが大きな影響を与えた。

 

このアルバムの出色は間違いなく、最終曲"All the Same"だ。「すべては同じなんだ/問題ない/なぜなら夜は単なる別の日でしかないから」と平凡さの中にある、ある種の悟りを得たような歌は曲の半分程度で終了する。そしてその後、曲の残り半分はひたすら同じギターリフを繰り返していくパートへ移行する。とにかくこのパートが筆舌に尽くしがたく素晴らしい。同じリフを繰り返すことで退屈な地方都市の世界が何か煌めくようなものに変容するのを私は見ることができた。3分程度で終わるパートだと分かっているのだが、何回聞いてもまるで永遠に続くかのように感じてしまう。

しかし、当然だが永遠に続くものは何もない。彼らReal Estateは次作"Atlas"(2014)で成熟したサウンドを見せたが今作にあった瑞々しさはすでに失われていた。その後ギターサウンドの要であったMatt Mondanileがセクハラによりバンドを追放されて以降、まずまずのアルバムを残してはいるが二度とこの頃のサウンドに戻ることは出来なくなってしまった。

 

しかし、必要以上に悲しむことはない。"All the Same"のサビで彼らはこのように言っている。「Oh when you came back from the scene it's true, you brought a melody/Oh I know it's hard but you stay with me, oooh ooh, we've got a memory(その場面から君が戻ってきた時/君はメロディーを持ってきた/辛いのは分かってる/でも君は僕といる/僕たちには思い出がある)」。私の短く、奇妙なあの冬はこのアルバムの思い出と共にある。そしてこれを聴くといつでもそこに戻ることができるのだ。